kindleで読んだ本レビュー「出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 / 宮崎伸治」 - 出版したければ言うことを聞け、に全力抵抗した男の話

Alexa読み上げで読了した本のレビューです 

f:id:GinTeamkuma:20201211162248j:plain

 出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 / 宮崎伸治

 

昨今Twitterで「編集者が~」「出版社が~」と、絵や本の著者がそれを出版してくれる会社に対してキレている風景をよく見かける気がする。かく言う私も出版こそしていないが身近な例が無いわけではなく、少し前に知人が小説を出版することになり、進捗状況などよく教えてくれていたが、出版直前あたりから編集者にまつわる愚痴がどんどん増えていたのを思い出す。とにかく編集者がいい加減だし期限を守らないし、ゲラを読んでいるのかさえ怪しかったらしい。それを追求すると「忙しいから」と仕事や家庭のせいにして保身に走ると。その後きちんと出版はされたが、その時の彼女の清々しさと軽い失望みたいなものを合わせた表情が忘れられない。嬉しいことなのに、それと同じくらいの不満が溜まっていたように見えた。

この本も、「10ヶ月もフルタイムで翻訳したのに出版中止にされた話」などのやってられないエピソードが盛りだくさんで、正直読み始めた時に「しまったこれは気持ちが暗くなるやつだ、やめようか」と思ったけど、まあ実際に気持ちは暗くなったけど、でも著者の宮崎さんは「真面目故にハメられそうになるが、真面目故に絶対に負けない」という性質を持っており、勝手に出版中止にされたからと言って、タダでは死なない。困ったら裁判に持ち込むのだ。

真面目故に全て日記に残していたのであろう、裁判の綿密な描写、気持ちの動きなどが文章を通してリアルに伝わってくるこの感覚は、まるでサスペンス小説を読んでいるかのようにドキドキした。

出版もしたことのない僕がそれらの描写を読むだけでこれだけ心臓が高鳴りものすごく嫌な気分になったのに、著者の宮崎さんはこの本に出てくるだけで3回も裁判を起こしたらしい。会社相手に個人で3回繰り返すなんて、想像するだけで胃が痛くなる。

その結果、表紙に「こうして私は職業的な「死」を迎えた」とあるが、もうトラブル続きに懲りてしまった宮崎さんは10年以上一切の翻訳作業を止めてしまっている。

個人をまるでゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)のように扱い使い潰すような業界に未来はない。そしてこういった慣習は僕の身近な体験にもあったように、過去の話でもなさそうだ。

本好きの一人として、是正されていくことを強く望む。

 

とにかく僕はこれからもし本を出版することがあっても絶対に書面で契約を交わすことに決めた。もし本を出版することがあっても。もし。もしね、もし。

 あと著者の宮崎さんは本は紙派らしいけど、僕は電子書籍どころか全部読み上げで耳で聞いてます、すんません...